「Boys, be ambitious」のニュアンス:2004年6月7日

札幌農学校の初代教頭・クラーク(William Smith Clark)博士が言い残した「Boys, be ambitious:少年よ、大志を抱け」が名言であるとされています。

「大志を抱く」ことに異存はないのですが、私には、呼びかけの「Boys,」に引っ掛かるものがあります。

日本語に訳すと、「少年(達)よ」、「青年(達)よ」となって、違和感がありません。「ああ、先生が親近感をもって呼びかけてくださっているんだな」と思えます。

しかし英語で「Boys,」と呼びかける対象は、通例、幼児達です。

もしくは気心の知れた大人同士がうちくだけた雰囲気で「Boys,」を使うことが考えられます。これは「old boys' network」感覚の「boy」です。

また、フットボールのコーチが選手達に「Boys,」と言ってもおかしくはありません。

ただし、農学校の生徒達は幼児ではなかったはずだし、またクラークと同輩の大人、もしくは同窓生であった形跡もありません。もちろんフットボールの練習中に気合いを入れていたわけでもなさそうです。

青少年、特に学生や幹部候補生など、に訓辞を垂れる時には、英語圏ではことさらに「Gentlemen」を用いて学生達の自覚を促します。これは、クラークがこの言葉を残したとされる1877年にも現代にも共通です。

気になるのは、以前アメリカの南部などで頻繁に用いられていた、「Boy」、「Boys」という呼びかけの言葉です。その年齢、職業にかかわらず「boy」「boys」と呼ばれる対象となったのは黒人男性でした。

「patronize」そして「condescend」という言葉があります。どちらも、「相手を見下して上位者ぶった態度をとる」とう意味です。アメリカ南部で黒人男性に対して「boy」と呼びかける語法はまさにこれにあたります。

例えば、高校を卒業してから間もないような若造の白人警察官が自分の父親よりも年上の黒人医師に対して、横柄にも「boy」と呼びつけることが珍しくはなかった訳です。

マサチューセッツ出身のクラーク博士に黒人を「boy」と呼ぶ習慣があったかどうかは不明です。

しかし、マサチューセッツ州立農科大学学長時代にクラークが同地の白人学生達を相手に「Boys,」と呼びかけて訓辞を垂れたとは考えにくいのです。おそらく、「Gentlemen,」で始めたことと思われます。

「terms of address:呼びかけ語」は、そのニュアンスが状況に応じて実に複雑です。男ばかりの相手に、ふざけて、もしくは挑発して、「Ladies,」と呼びかけることさえあります。

クラーク博士が発した「Boys,」の真意は謎ですが、時代背景などを考えると実に興味深いものがあります。

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